サバイバルの基本を知る その4

前回は、ナショナル・ジオグラフィックによる手引書、「世界のどこでも生き残る完全サバイバル術」に基き、とくに、危機的状況におけるグループ行動の有効性や、「S・T・O・P」という常に最初に行うべき手順などについてご紹介しました。その記事はこちらです。

今回は本書のまとめとして、危機の想定をここ日本国内で自然災害に襲われる場合に絞り、サバイバルの可能性を最大にする「備え」とは何か、その要点を抽出してみたいと思います。書店では防災関連のさまざまな類書を入手できますが、本書は、ナショジオならではの視点で役に立つアドバイスを提供しています。災害のなかで生き延びる可能性を最大にするために、「自分でできることはたくさん」あると訴えています。ご参考になれば幸いです。

(1) まず、当たり前のようですが「体と精神を鍛えておく。計画した冒険に旅立つ前に正しい体力づくりを行っていれば、いざという時に必要なスタミナと精神力を維持」できると指摘しています。日常生活には関係ない・・と言えません。たとえば、首都直下地震(30年以内の発生確率70%)一つをとっても、首都圏の方々は「毎日が冒険」といえる状況です。心の備えとしても、いざというとき「自らの恐怖心を認め、それをもう一人の自分の視点で客観的に見つめる」といったことが可能かどうか、これもまた普段の心がけ次第ではないでしょうか。

(2) 次に大切なことは情報です。「何が起こるかをすべて予想して準備するのは不可能」であるとはいえ、自分と家族が住む地域でどんな災害が起こりやすいかを事前に「自分で調べ、家族にも知らせておくこと」が大切です。自治体等で作成されているハザードマップ、(できるだけ詳細な被害想定を含む)地元の防災計画、近隣の地図(主要施設や道路、河川、高低差等が読み取れるもの)、複数の避難ルートや避難場所などが、前もって把握しておくべき最低限の情報であり、それらは誰かに伝えてもらうまで待っているのでなく、自分から積極的にとりにいくことが必要です。

(3) 次にそれらの基礎情報を踏まえ、電気・ガス・水道・電話回線などのライフラインが止まっても、家族が「最低3日聞を過ごせる防災セット」を自宅に備えます。可能であれば少しでも長い期間、たとえば2週間ほどを過ごせるセットを用意しておけば、より安心できるでしょう。本書では、防災セットの中身やそろえるためのヒント、独自の防災セットのつくり方、市販の防災セットのチェック・ポイント、(防災セットを含め)避難時に家から持ち出すもののリスト、などを具体的に記載しています。

ラジオライフ2017年4月号また、自宅だけでなく自家用車、および職場にも可能な限りのものを準備するよう勧めています。セットとして保管する前には、ラジオや懐中電灯、コンロ、その他の道具類については一度使用してみること、食料もできれば一度食べてみることなどを行ない、中身をしっかり確認しておきましょう。

 

(4) 防災セットの次は、アクション・プランの実行です。大人全員と年長の子どもたちは以下の項目を行ないます。本書では「防災計画を立てる」、「訓練しておくべき防災スキル」などと表現している部分です。

・119番・110番への電話のかけ方を子どもたちに教えておきます。「災害用伝言ダイアル(171番)」や、自治体などによるスマホ向け防災アプリ(*)も同様。
・家族の連絡先 ― 電話番号、メールアドレス(*)などを覚えるか、手帳にメモしておきます。スマホ等が使えなくなる状況も考えたバックアップです(*)。
・地域外に緊急時の連絡先(コンタクト・パーソン)を決め、信頼できる連絡先には自分や家族に関する必要な個人情報を前もって預け、いざというときの開封を依頼します。
・家の外へ出る(避難・脱出する)ルートを各部屋で2通りずつ決めておきます。場合によって、家族で「津波てんでんこ」式のルール(*)を決めておきます。
・家の外での集合場所(すぐに集まって全員の安否確認ができる場所)を決めておきます。集合場所は「第1」、そこに行けないときは「第2」というように複数地点を用意します(*)。
・防災セットの保管場所、消火器の使い方、電気・ガス・水道の元栓などを確認しておきます。
・できるだけ、最新の応急手当法、心肺蘇生法、AEDの使用方法(*)などの訓練を受けておきます。

(*印は筆者による追記)

(5) 以上はすべて、時間に余裕のあるときにやっておくべき事前の「備え」ですが、さらに、災害の直前および直後の「避難行動」についても確認しておきたいと思います。基本的に「避難指示が出たら、1分たりとも無駄にしないで素早く動かなければ」なりません。警報から避難するまでにどれだけ時間があるかによって、持ち出すものは変わります。そうした中でも「必ず長ズボンと長袖のシャツに着替え、丈夫な靴を履く」ことが基本です。

Photo by Taisyo – 2014年8月の広島
の豪雨被害(八木地区)/ CC BY 3.0

しかし「指示が出ていない場合、屋外に避難するか家にとどまるかの重要な選択をするのは、あなた自身」という状況に、とくに注意が必要です。伊豆大島の土砂災害(2013年)、広島市の土砂災害(2014年)、岩手県岩泉町の洪水被害(2016年)などの教訓を思い起こしていただきたいと思います。災害の危険が迫りつつあるとき、自宅にとどまるのか・外部に避難するのか、いますぐ行動に移すかどうか。刻々と状況が変わる中で、どうすれば自分と家族を守れるかを自分自身で判断し、行動しなければなりません。

本書では、「救助がすぐに来ないと分かっている場合や直ちに医療行為の救援が必要な場合。また、そこに十分な水がないなど、現在地が自分の生存を脅かすと判断し、その場所から抜け出す方法を知っている場合だけ」は、現在地を離れてよいとしています。それでも「家から出るのがどうしても不可能な場合」があります。そのときは、あらゆる連絡手段を用いて救援を求め、待つことになります。天候が許せば、鏡や火、煙、SOSサインなどを使って居場所を知らせることも可能です。また、救援が来るまでの時間的目安として、以下の「3の法則」が紹介されています。

3分以上、体に酸素が行き渡らなければ死に至るとされている。
呼吸が止まった人には、即座に処置が必要。
3時間以内には、雨や雪、もしくは炎天下の日差しや極度の低温、あるいは高温から体を守る必要がある。
3日以内には、水分と睡眠をとる必要がある。
3週間以内に、食事をとらなければならない。

ここまで、ナショナル・ジオグラフィックによる「世界のどこでも生き残る完全サバイバル術」のエッセンスをご紹介してきました。次回は、もう一冊の著名なハンドブックをご紹介しながら、締めくくりとして、サバイバルにおける心理面のポイントを見ておきたいと思います。

サバイバルの基本を知る その5につづく。

投稿者: heartbeat

管理人の"Heartbeat"(=心拍という意味)です。私の心臓はときおり3連打したり、ちょっと休んだりする不整脈です。60代半ば。夫婦ふたり暮らし。ストレスの多かった長年の会社勤めをやめ、自由業の身。今まで「趣味は読書」といい続けてきた延長線で、現在・未来の「同好の士」に向けたサイトづくりを思い立ちました。どうぞよろしくお願いします。