サバイバルの基本を知る その3

前回は、ナショナル・ジオグラフィックによる手引書、「世界のどこでも生き残る完全サバイバル術」からアーネスト・シャクルトンのエピソードを、類似の事例とともにご紹介しました。その記事はこちらです。

世界のどこでも生き残る 完全サバイバル術 (ナショナルジオグラフィック)南極におけるシャクルトン、伊豆鳥島の野村長平、八甲田山の陸軍兵士・・・これらはすべてグループ、集団によるサバイバル事例です。もしみなさんが単独の旅行者や、ひとりで隠遁生活を送るような方であれば、あまり関係なかったかも知れません。ここで強調したいのは「グループ行動は有利」ということです。究極のサバイバルは、孤立無援となった一人の人間を主体とするものですが、私たちのように平凡な生活を送る日本人にとっては、単独行動より、おそらくグループ主体のサバイバルを考えるほうが現実的と思うわけです。

インパラの群れ (アフリカ)

人間には基本的に、生存の不安を解消するためグループ(生物学的には”群れ”)をつくって生活しようとする傾向、あるいは本能があるとされています。本書でも、サバイバルの観点から「大勢でいた方が助かる可能性が高くなる」、助け合いながら「必要な作業をこなし、お互いの命をつなぐことができる」と指摘しています。ただし、すでに歴史上の事例で見てきた通り、グループが機能するには中心となるリーダーが必要であり、そのリーダーの良し悪しがサバイバルの成否(=メンバーの生死)を左右するという課題があります。

また、グループで行動しようと一旦決めても、リーダーのなり手がないとか、良いリーダーに恵まれない場合もあるし、非常時特有の著しいストレスや食料等の不足によって人間の欠点が顕わとなり、グループの維持が困難となる場合もあるでしょう。しかし、そうした深刻な課題が生じ得るとしても、なおかつ大勢の方が助かる確率の高いことに留意すべきと思われます。

ゾウの群れ (インド)

さらに、グループが形成されたあとの可能性として、みんなと行動を共にするのはむしろ危険かも知れない、などと疑問を持った場合にどうするかです。「グループに留まって様子をみるのか、離れて単独行動するのか」という選択を迫られますが、難しくとも自分自身で判断するしかないでしょう。他人に命を預けても構わないと楽観できる人であれば、「(自分では何も決めず)誰かに決めてもらおう」という選択もあり得ますが。さて、みなさんの場合はいかがでしょうか。

はしれ、上へ! つなみてんでんこ (ポプラ社の絵本)上記のようにケース・バイ・ケースでなく、前もって単独行動を絶対的ルールとして決めておくこともできます。「津波てんでんこ」です。東北三陸地方の言い伝えとして、津波はあっという間に襲来するため「てんでんこに(てんでんばらばらに)逃げなさい。家や職場にはけして戻らず、親子や兄弟姉妹も顧みず、各自で予め決めてある高所に逃げなさい」というルールのことですが、東日本大震災の経験を経て、有効性・必要性がつよく再認識されました。この事例などを参考にして、各地域やコミュニティで普段から話し合い、何らかのルールを決めておけるならばそれに越したことはないと思われます。

ここまで、主にグループ主体のサバイバルについて考えてきましたが、単独で行動しなければならないときの心得についても見ておきたいと思います。まず前提として、私たちはアーネスト・シャクルトンでも野村長平でもなく、ごく普通の弱い人間であるという認識が出発点です。したがって「いざというとき、自分はパニックに陥らないだろうか」と心配するのは当たりまえ。そこで本書では、突発的な危機に直面した際、「ごく普通の」人間である自分をコントロールするために、常に最初に行うべき手順を教えています。それは「S・T・O・P」と名付けられています(”ストップ”と読めます)。

 Stop
(やめる)
体を動かすことは避ける。座って呼吸を整え心拍数を下げる。数字を3つ数えながら鼻から息を吸い、そのまま3つ数え、また3つ数えながら、鼻あるいは口から息を吐き出す。この呼吸法は、心を落ち着かせ、脳にリラックスするよう信号を送ることができる。
 Think
(考える)
落ち着いたら置かれた状況を見つめ、どう対処できるかを考えよう。呼吸が遅くなると、認知する機能が向上するからだ。
 Observe
(観察する)
周囲の地形や仲間の状態、特にケガをしていないか把握する。現状に向き合うため何を持ち、何がないのかを見極める。
 Plan
(計画する)
状況を把握したら、最も効率的な戦略を立て始める。必要に応じ、計画を修正することを恐れてはいけない。

この「S・T・O・P」を知らなければ、今がサバイバルというとき「何をどうすべきか」と考えるうち、ほんとうにパニックや思考停止を起こしかねません。非常時においては「完壁に順序立てられたチェックリストなどは存在しない。なぜなら、その時の周囲の状況や直面している健康状態によって変化するからだ。しかし、最初に行う手順は常に変わらない」 ―― それが「S・T・O・P」であり、覚えておいて素直に実行すればいいのです。ただし、「最初に行う」と言いましたが、救命措置やケガの応急手当が必要な場合はそれらを優先します。

「S・T・O・P」を行い、心を落ち着かせることができたら、次はいよいよ行動に移ります。たとえば、飲み水の確保やシェルターを探すことなど、本書で記載している具体的なサバイバル行動を指します。一部の専門家はこの “Act”(行動する)を5番目のステップに加えているようですが、まず何はともあれ、「S・T・O・P」(”ストップ”)と覚えておきましょう。

サバイバルの基本を知る その4につづく。