わすれられないおくりもの その2

前回と今回の2回にわたり、スーザン・バーレイの絵本の名作「わすれられないおくりもの」(評論社)をご紹介しています。前回の記事はこちらです。

badge-03子どもたちは初めに、タイトルの「おくりもの」は何だろうと興味を抱いたはずですが、その中身が明かされます。「おくりもの」とは、何かの「もの」ではなく、ハサミの使い方や、スケートの滑り方や、ネクタイの結び方や、しょうがパンの焼き方など、各々がアナグマからとても親切に教えてもらい、今では自分でできるようになった「すてきなこと」という意味だったのです。子どもたちは、アナグマが一人ひとり親切に「すてきなこと」を教えてあげた行為、さらに、そのお返しとして、森のみんながアナグマに心から感謝していること、アナグマを敬慕し続けていることに感動するでしょう。

わすれられないおくりもの (児童図書館・絵本の部屋)森のみんなは、アナグマの死に遭遇したばかりの頃は、悲しみで取り乱しますが、時が経つにつれ、アナグマの思い出を語り合うことの素晴らしさに気づいていきます。「死」は最大の悲しみだったけれども、アナグマとの幸福なエピソードを共有することで、明るさや希望を取り戻していくのです。かれが友人として存在していたおかげで、みんなの生活が今どれほど豊かに彩られていることか。かれの話が出ると、誰かしらまた別の楽しいエピソードを語り始めて、みんなを笑顔にします。アナグマと過ごした記憶はこうして良い思い出ばかりになっていき、みんなはいつの間にか、悲しみを乗り越えました。

なんとすてきな展開でしょう。ここには「死」とどのように向き合い、考えていけば良いかということについての非常に重要なヒント、あるいは、このように扱えば「死」をポジティブに捉えることさえ可能という発見があります。本作が示すことに成功した、本質的な解決策とは、まさにこのことだったのです。

badge-01もう一度、ストーリーを振り返ってみたいと思います。はじめにアナグマの死が描かれます。「死」は事実として提示され、表現の効果によってその悲劇性は抑制されています。その後、アナグマが森の動物たちにとって非常に大きな存在であったという事実が、かれらの悲しみや心の痛みを通して描かれます。ここでは間接的に、身近な人の喪失がだれにでも起こり得ることも示唆されています。子どもたちは前半で「死」に対する驚き、不可解さや厳粛さの感覚、さらに、悲しみへの共感や理解などを体験します。

子どもたちは、後半になると「死」で始まった悲しいはずの物語が、動物たちみんなの積極的な行動によって、明るく幸福な物語へと転換したことにほっとし、安心感や高揚感を覚えます。クロージングに至り、モグラが空気に向かって「ありがとう、アナグマさん」と言い、傍でアナグマが聞いているような気がします。子どもたちは感謝の大切さを知り、また「アナグマが心の中で生き続ける」ことも素直に受け入れるでしょう。

badge-02本作はこのように、きわめて優しいアプローチのしかたで、子どもたちに「死」を身近なものとして疑似体験させ、そこを起点に、豊かな人生や生活とは何かといった深いテーマに至るまで、多くの考える材料を提供しています。読んで聴いて楽しめる名作であると同時に、まさにパーフェクトな教材に仕上がっています。本作はまた、いつか実際に遭遇するかも知れない「死=喪失」に際して、子どもたちを強力に手助けするはずです。そのとき、傍に控える大人は、あらためて子どもたちに本作を読み聴かせてあげたいものです。

そのあとは動物たちと同じように、ゆっくりとフォローしていきます。身近だったその人の面影や、一緒に過ごした時間、楽しかったエピソードなどを少しずつ思い出し、できるだけ言葉にしてみます。そばに同席者がいれば語らい、またじっと誰かの話すことに耳を傾けます。だれでも、思い浮かべるだけでは先に進まず、感情の海のような場所に漂いつづけてしまうことが普通です。けして簡単な作業ではないかも知れませんが、できるだけ言葉にして話す(または書く)ということを始めれば、心のなかが落ち着いていき、人生を積極的に生きるための一つの解決策になると思われるのです。

この絵本をご紹介し、おすすめする理由は以上のとおりです。

アナグマのもちよりパーティ (児童図書館・絵本の部屋)アナグマさんはごきげんななめ (児童図書館・絵本の部屋)わたしのおとうと、へん…かなあ (児童図書館・文学の部屋)

投稿者: heartbeat

管理人の"Heartbeat"(=心拍という意味)です。私の心臓はときおり3連打したり、ちょっと休んだりする不整脈です。60代半ば。夫婦ふたり暮らし。ストレスの多かった長年の会社勤めをやめ、自由業の身。今まで「趣味は読書」といい続けてきた延長線で、現在・未来の「同好の士」に向けたサイトづくりを思い立ちました。どうぞよろしくお願いします。

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