「働き方改革」とはなにか その3

people-11前回は、八代尚宏著、「日本的雇用慣行を打ち破れ」をご紹介する1回目でした。その記事はこちらです。

今回は「働き方改革」の本丸にせまる本として、ひきつづき、八代尚宏著、「日本的雇用慣行を打ち破れ」をご紹介していきます(2回目)。そのまえに、かつて自分が一会社員として、いくつかの職場で体験した「雇用慣行」にまつわる状況を、箇条書きでごくかんたんに紹介させていただきます。きっと多くの皆さんが同じような、あるいはもっとさまざまな経験をお持ちでしょうが、筆者の場合は次のようなものでした。

欧米の複数の海外子会社で働いたことがありました。そこで”job description”をにわか勉強し、それに基づいて現地社員の評価を行ないました。(ただ、適切に行なえたかどうか、当時も今も自信を持てません)
(一部上場企業の)労働組合でいっとき執行委員などを務めました。そのとき36協定、職能等級制度や賃金カーブなどを知るとともに、ユニオンショップといった概念から日本の雇用形態がメンバーシップ型であることに気づきました。
管理職として、部下の評価、組織・社員のリストラ、有期契約・派遣社員等の採用や解雇などに関わったことがありました。
ある職場では、長時間労働などにより、同僚らが健康を損なうといった状況を経験しました。
ある職場では、慢性的に人手が足りず、かつ正社員・有期契約・パート・請負などの多様な働き手が混在しており、そこで管理に携わったことがありました。

自分は会社の中にいて、雇用慣行から既得権を得た立場であることを良くも悪くも実感しながら、その仕組みの内部や表面からさまざまに表れる矛盾も同時に見てきたわけです。たしかに80年代までは良い時を過ごしましたが、それ以降はけして平坦な道ばかりではありませんでした。たまたま今こうして振り返ってみると、原体験を確認して感慨にふけるというよりも、いかに多くの日本人が日本的雇用慣行に囚われてきたか、といったことに思い至る自分を発見しています。

nihonteki-koyou-kankou-wo-uchiyabureさて、八代氏は本書の第2章、「効率的な労働時間規制へ」において、まずは政府主導で、労働時間の総量規制を実現することを主張しています。「健康を維持すること」はいまや最大の国民的関心事ですから、それを妨げる長時間労働を何とかすることは、まさに国民の願いにほかなりません。長時間労働の是正について、八代氏をはじめとする有識者の意見が今回、政府の「働き方改革」の重要項目に反映されたことは良かったと思います。

八代氏は、慢性的な長時間労働が、労働者の健康を脅かすのみならず、時間当たりの労働生産性を低め、また、仕事と子育ての両立を阻むなどさまざまな社会問題の根源となっていると指摘します。それに対して、現行法における残業規制が抑止力として有効に機能していないのです。企業にとって、労働需要に対し雇用を増やさず、現有人員に割増賃金を支払うことが有利になること、労働者にとって割増賃金の魅力が大きいこと、また労使間の合意によって容易に労働時間規制が除外されることなど、現行法には多くの欠点があります。

このため、端的には、法律で労働時間の上限を決める必要があります。たとえば、欧州の例で、仕事終了時から次の開始時まで11時間を空ける規制とか、ドイツの場合のように、残業を割増賃金でなく休暇に振り替える制度なども、有効なオプションと考えられています。他方、労働時間への直接規制には適用除外規定も必要となり、裁量労働制にまつわる議論が予想されます。八代氏が、日本的雇用慣行の構造的問題を見据えながら、このように、政策としてすぐやるべきこと・やれることを重視していることが分かります。

「働き方改革」とはなにか その4 につづく。

投稿者: heartbeat

管理人の"Heartbeat"(=心拍という意味)です。私の心臓はときおり3連打したり、ちょっと休んだりする不整脈です。60代半ば。夫婦ふたり暮らし。ストレスの多かった長年の会社勤めをやめ、自由業の身。今まで「趣味は読書」といい続けてきた延長線で、現在・未来の「同好の士」に向けたサイトづくりを思い立ちました。どうぞよろしくお願いします。