「働き方改革」とはなにか その2

前回は、濱口桂一郎著、「新しい労働社会 ― 雇用システムの再構築へ」をご紹介しました。その記事はこちらです。

今回は「働き方改革」の本丸にせまる本として、八代尚宏著、「日本的雇用慣行を打ち破れ」をご紹介したいと思います。内容が多いため、何回かにわけてお伝えしていく予定です。タイトルにある「日本的雇用慣行」とは、長期雇用、年功賃金、企業別組合のことであり、先の濱口氏の著書では「日本型雇用システム」と呼びましたが、もちろん同じものを指します。多少の用語、用法の違いはこの際あまり重要ではないようです。

nihonteki-koyou-kankou-wo-uchiyabureこれらの雇用慣行が戦後大いに普及し、高い経済成長に貢献しました。八代氏は、その強い「成功体験」がその後の雇用改革を阻む要因になったと述べます。とくに1990年代以降、成長の大幅減速など、経済環境が大きく変化してきました。今後とも高い経済成長は期待できないことが明らかになる中で、これまでの日本的雇用慣行に固執したままの状態は、多くの労働者に高いリスクを生じていると指摘します。

日本的雇用慣行の典型は、大企業において「男性正社員が、長期の雇用と家族を養う生活給を保障される代わりに、使用者に命じられるままに、どのような仕事でも無限定で働く」という仕組みです。濱口氏による「『職務』を決めないメンバーシップ契約型の雇用」と同じです。ところが、現在の労働市場の全体を見れば、上記モデル以外のところで、女性、高齢者、非正規社員、パートタイム、派遣、有期契約、共働き、外国人など働き手・働き方が多様化しています。

日本的雇用慣行は、そうした多様な働き方にまったく対応できず、処遇、賃金の大きな差をはじめとして、きわめて不公平な状態を生じています。これを改革していかねばなりませんが、八代氏はそこで、正規と非正規など労働者同士の利害対立=「労・労対立」が、改革を阻害していると指摘します。正規社員主体の労働組合が、声高に叫ぶかどうかは別として、「非正規社員を締め出せばよい」とするような考え方がその典型です。

八代氏は、労働者の特定の働き方を保護するのではなく、「多様な働き方に中立的な立場から、(すべての)労働者の公平性を確保する新しいルールをつくること」が、あるべき雇用改革の姿であると主張します。そのルールの下で、いまの男性正社員も、他の多様な働き方をする労働者と対等な競争にさらされることになります。八代氏は、そうすることが労働市場改革の基本であると指摘します。

people-05八代氏はまた、表現をすこし替え、「正社員と非正社員の壁」、「男性と女性の壁」、「年齢の壁」、「大企業と中小企業の壁」、「外国人の壁」など、効率的で公平な労働市場の実現を妨げるさまざまな障壁を撤廃し、「透明性」、「均衡処遇」、「多様性」のある働き方を実現しなけれなならない、と改革の道筋を示します。そのためには、労働法制だけでなく、働き方に影響する税制や社会保険制度の改革も含めるべき、としています。

また、政府は問題を長らく放置してきた「労働行政の不作為」を反省し、日本的雇用慣行に適切に介入していかねばならないことも指摘します。本来は労使合意に基づく雇用慣行に、政府の介入がなぜ必要かといえば、労働者の利益を代表するはずの労働組合が、組織率を2割以下に低下させ、多様な働き手・労働者のニーズを十分に反映することができない状況を挙げています。この方法論の部分は、濱口氏の政労使による合意形成努力とは、多かれ少なかれニュアンスが異なります。

「働き方改革」とはなにか その3 につづく。

投稿者: heartbeat

管理人の"Heartbeat"(=心拍という意味)です。私の心臓はときおり3連打したり、ちょっと休んだりする不整脈です。60代半ば。夫婦ふたり暮らし。ストレスの多かった長年の会社勤めをやめ、自由業の身。今まで「趣味は読書」といい続けてきた延長線で、現在・未来の「同好の士」に向けたサイトづくりを思い立ちました。どうぞよろしくお願いします。